音無は楓ちゃんの苗字。





あれはやけ食いだし、楓ちゃんがくれたんだもん。





とりあえず今それどころじゃないこと、察して。





「楓ちゃんはお腹強いんです…鋼なんです。…さよーなら!」





先生を無視して立て付けの悪い扉から同じような音を立てて廊下に出た。







一回、落ち着いて……







「冬侑!」






昼間の学校に響く小麦の声に、落ち着けるわけがなかった。





…本当に、小麦なんだ。





私を追って腕を掴んだのは、いつもみたいに温度の低い手だった。





その手を振り払うほどの拒否の気持ちは無くて、大人しく腕を引っ張られて屋上へ出た。






太陽に当たっている小麦の髪は、茶色に見えた。思った通り肌色が薄くて、目の下には小さなホクロがある。






暗い世界では気づかなかった小麦の事。