「俺とも手合わせしろよ〜!」

「いや、ちょっと休ませてあげなさいよ」

「僕、ポテチ買ってきたんだけど食べる?」

「俺、プリッツ待ってるぜ。こっちも食おう!」

この世界は残酷で、とても汚い。それでもこうして笑い合える瞬間がある。優しい人がいる。そう桐子は信じていた。しかしーーー。

六月三十日、任務で魔物を倒しにとある街を訪れた際、桐子の予想に反して多くの魔物が街に現れ、建物を次々に破壊していった。

魔物が見えない一般人は、突然崩壊していく建物を見てパニックになり、我先にと逃げ出していく。事故があちこちで起こり、車が燃え、怒鳴り声や悲鳴が響き渡った。

「落ち着いてください!」

桐子の叫びは誰の耳にも届かない。そして、屈強な男が前をヨロヨロと歩く杖をついたおじいさんと孫と思しき小さな女の子を突き飛ばし、「邪魔なんだよ、クズが!!」と怒鳴っているのを目にした瞬間、桐子の体と心は潰されたような感覚を覚えた。