昴生さんは、私の知らないところでまだ妃香さんと連絡を取り合ってたんだ……。

 前に妃香さんの所属するオーケストラのコンサートを見に行って楽屋挨拶をしたとき、ふたりは「ひさしぶり」とお互いに言い合っていた。

 それまで昴生さんがプライベートで女の人と連絡を取り合っている気配はなかったから、あの再会をきっかけに、ふたりは連絡を取り合うようになったのかもしれない。

 妃香さんはとても綺麗な人だった。あんな綺麗な人に、「会おう」なんて誘われたら断れないだろうし、もしかしたら心変わりしてしまう可能性もあるかもしれない。

 昴生さんは、妃香さんにどう返事をするんだろう。

 渡米まではあと二ヶ月。二週間後の週末には引っ越し屋さんが来て、アメリカに先に船で送っておくものを荷造りしてくれる。

 そんな時期に、妃香さんと会う約束をしてどうするんだろう。

 ふと、事実婚をしてアメリカで暮らしていた母が、父親とうまくいかなくなって日本に戻ってきたことを思い出してしまう。

 もし、昴生さんが私をニューヨークに連れて行く選択したことを後悔していたら……。

 妃香さんを選べばよかったと思っていたら、どうしよう。

 ダイニングテーブルに置かれた昴生さんのスマホを見つめながら、急にものすごく不安になった。