「我が儘だな」

 昴生さんが呆れたように眉根を寄せてクッと笑う。それから、少し前屈みになって私の左耳に唇を寄せるとふーっと息を吹きかけてきた。

 鼓膜を震わせた息に、思わず身体がぞわぞわっとする。

 左耳を押さえて顔をあげると、昴生さんがケラケラと笑っている。


「もう、ふざけないでください!」

 ぷくっと頬を膨らませて睨むと、昴生さんが笑いながら左耳にあてた私の手をつかんで引っ張った。

 引き寄せられた私の耳に、昴生さんが「好きだ」とささやく。

 不意打ちの告白に胸がぎゅっと縮む。

 婚姻届提出の日に部屋着ですっぴんだった記憶など、あっという間にすっかり吹き飛んで。私の思い出のほぼ全部が、昴生さんのくれた初めての「好き」の一言に満たされた。