悪魔に誘拐されて売られるくらいなら、いつもみたいに男の子たちに意地悪されたほうがマシだ。

 おばあちゃんにはもう会えないんだろうか……。私のせいで、おばあちゃんが身代金とか要求されたらどうしよう。

「うちは、おばあちゃんと二人暮らしで、お金なんてないんです」

 男のほうを振り向いて涙目で訴えると、彼が怪訝な顔をした。

「は? 何言ってんだ。お前、うちで働いてる矢木さんの孫だろ」
「え?」

 矢木は、私とおばあちゃんの名字だ。この人、おばあちゃんの知り合い?

 まばたきをして見上げると、男が大きな手のひらで私の頭をぐしゃぐしゃと無遠慮に撫でてきた。

「お前、学校帰りにしょっちゅうあいつらにいじめられてるだろ。帰ってきたらいつも服が汚れてるって、矢木さん心配してたぞ」

 私の前にどかっとしゃがんだ男が、服についた砂を乱暴に手で払ってくれる。その様子をじっと眺めていると、男が不意に視線をあげた。

 我が強そうな、だけど間近で見ても綺麗な男の顔にドキッとする。

 この人、やっぱり私を助けてくれたんだ……。