「お前、誰だよ……」

 リーダー格の男の子が去勢を張って前に出ると、男はうざったそうに眉間を寄せた。

「なんでこの俺がお前らみたいなガキに名乗らないといけねーんだよ。それよりも、そいつをこっちに寄越せ」

 男がズボンのポケットに手を突っ込んだまま、私のほうに顎をしゃくる。男の言葉に、私をいじめていた男の子たちはお互いに顔を見合わせた。

「お前、こっち来い」

 戸惑っている男の子たちを、あまり興味なさそうな目で見つめながら、男が私の手首をつかんで少し乱暴に引っ張る。

「え、でも……」

 最初はいじめられている私を助けてくれたのかと思ったけど、もしかしたら違うのかもしれない。

 私は、この男のことを知らない。

 もしかして、誘拐される……? 悪魔みたいに全身真っ黒なこの男に、どこかに売られるのかも……。

 青褪めて逃げ出そうとしたら、男の腕が後ろからガシッと私の首元を押さえるようにして捕まえた。

「お前ら、二度とこいつのこといじめんなよ」

 真っ黒な男に捕まえられてもがいている私を見てヤバいと思ったのか、いじめていた男の子たちがパラパラと走って逃げていく。