「あっ!」
時は11月後半。
放課後、昇降口を出ようとしたタイミングで千花ちゃんが思いだしたように声をあげた。
履いたばかりのかローファーから視線を移すと、千花ちゃんはわかりやすく顔を歪ませていた。
「数学のノート出し忘れたぁ……サイアク、靴履いちゃったじゃん……」
「わたしここで待ってるよ」
「えーんごめんねぇえ。ありがとう、すぐ行ってくるから!」
今日中に提出の数学のノート。
本当昨日までの期限だったけれど、数学の先生はやさしいから、特別の今日の放課後まで待ってくれることになったんだ。
千花ちゃんはいつもはしっかりものだけど、時々抜けちゃうことがあって……それがたまたま今日だったみたい。
「5分でもどるねぇえ!」
「はあい。急がなくていいよー」
もう一度上履きに履き替えてずぐ走りだした千花ちゃんの背中にそう声をかける。
わたしはもうローファーに履き替えちゃったし、昇降口を出て待っていよう。