目を閉じる暇もなかった。芦原くんの綺麗な顔が視界を埋めている。

唇から伝わる熱が、現実を連れてくる。



一瞬だけ触れ合ったのは​────たしかに芦原くんの唇だった。



キスされた。

わたし、今、芦原くんとキスした。





「……なんか、ひろのこと見てると汚したくなる」

「っ、」

「あんまかわいいことしないで。心臓もってかれるかと思った」



ふは、と困ったように笑った芦原くんが、くしゃくしゃと金色の髪を掻く。


「今みたいなやつ、俺以外にしちゃだめね」

「……」

「ワガママだってわかってるけど、ゆるしてよ」



ぽんぽん…と優しく頭を撫でられ、わたしは顔を隠すように俯いた。



心臓もってかれそうになってるのは、最初からわたしのほう。


「もうだめ。帰ろ」

「…、うん……」

「もー…、寒いのにあっついわ」





わたしがわがままを口走ってしまった理由も、芦原くんのワガママの真意も、なんにもわかんないけど。





「なかったことになんかすんなよ、ひろ」




芦原くんから貰った熱は、確かに残っていた。