どき、と分かりやすく心臓が音を立てた。
きょろきょろと店内を見渡したけれど同じ学校の生徒はいない。
「ひろに向けてじゃない?」
「え、え、でも」
「だってめっちゃこっち見てるもん!」
戸惑うわたしと、興奮する千花ちゃん。七海は「永野は一旦落ち着けよ」と千花ちゃんを制している。
間違っていたらはずかしい、けど、多分……目、合ってる。
手を振り返す勇気はなくて、わたしの勘違いだったとしても誤魔化せる範囲で軽く会釈をすると、芦原くんはわたしの動きを真似て会釈をしていた。
信号を渡り終えた芦原くんは、目の前の歩道を通る時にもう一度軽く手を振ってくれた。
ふ、と口角をあげて柔らかく笑った顔が印象的で、胸のあたりがきゅんとなる。
……会釈をしただけなのに、こんなにどきどきするのはどうしてなのかな。



