「ひろにもようやく春が来たのかと思ってたんだけどなぁ」
「恋とかよくわかんないもん……」
「かわいいのにもったいなぁい」
千花ちゃんが眉を下げて残念そうな声色で言う。
好きとか、いちばんになりたいとか、トクベツでいたいとか、わたしにはまだその感覚が分からない。
いつか、心から好きな人ができて付き合うことになったらいいなぁっていう漠然とした理想はあるけど。
でも、芦原くんみたいにソコウフリョウで不真面目な人はタイプじゃないから話にならない。
傘は無事返してもらったし、明日からはただ同じ学校に通う生徒同士に戻るだけ。
恋とか、絶対ありえないもん。
頑なに首を横に振って、千花ちゃんがようやく「そうかぁあ」と若干不服そうに唸ったところで芦原くんの話は終了した。



