なんとか芦原くんを人気の少ないわたり廊下に連れて来て、引っ張って来た腕を離す。



「別にこんなとこまで来なくたって」

「あんな人前で名前呼ばなくたって!」




芦原くんは自分がどれだけ注目を浴びている人間か分かってないんだ。


わたしみたいに平凡で真面目なだけの女子の横に並ぶような人じゃない。芦原くんが良くたって、どこで女子の反感を買うかわからないもん。


むっと睨むも、どうも効果は無さそうだった。



「だいたい何の用で…」

「傘、返しに来ただけ」




芦原くんがスクールバックから折り畳み傘を取り出す。



黒の、星空みたいなデザインの傘。たしかに昨日、わたしが芦原くんに貸した傘だ。



芦原くんが心臓に悪い人、という記憶の方が強く残っていたから、傘を貸したままだったことをすっかり忘れていた。