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「はい、捕まえた」
「っはあ…っ足…ッ早すぎない…っ!?」
「俺が早いってより、ひろが遅すぎるんだと思うけどね」
ぜえぜえと息を切らすわたしと、全然余裕そうにしている芦原くん。
走距離は多分100mにも満たなかったと思う。
捕まれた右手はいつの間にか恋人つなぎにされていて、ぜったいに逃がさねーぞ?という芦原くんのかたい意思を感じた。
大通りを抜けて比較的人通りが少ない歩道に出たところで、芦原くんには追い付かれてしまった。
「なんで逃げんの」
「そっ……れは…、」
芦原くんに会って話をすると決めたばかりだったとはいえ、こんなにすぐにその時がやってくるとは思っていなかったからだ。
心の準備ができていないからつい逃げてしまっただけだったんだけど……冷静に考えてみると、50m走が9秒台のわたしが芦原くんに勝てるはずがなかった。
言葉に詰まって俯くと、「ひろ」と優しい声色で名前を呼ばれた。
それだけで、どうしてか泣きそうになってしまう。



