「……あの、ありがとう芦原くん」
「ん、いーよ」
数学準備室でふたりきり。
向かい合って座って運んできた課題のノートを番号順に並べていると、ひろが不意に口を開いた。
いーよ、とか澄まして言ってみるけど、俺が勝手にそうしただけだ。
ひろとふたりになれる口実を見つけたから利用した、それだけの話。
「わたし、また断れなくて……」
「まあでも、優しいのはひろの良いところでしょ」
「うう……」
しゅん…と落ち込むひろの頭を撫でると、ひろは「ありがとう……」と小さく呟いた。
伏し目になると、ひろの長いまつ毛がよく映えた。白くて透明感のある肌に、化粧っ気ない、少し幼い顔。
それがかわいくて……好きで。
「ひろー」
「何──…、っ?」
ひろの気持ちを尊重したいという意思とは裏腹に、どうしようもなく触れたくなってしまうのだ。
顔を上げたひろの唇にちゅ、とひとつキスをする。
「な……、う、芦原くん、」
「…つい」
「つ、ついって……」
ひろの顔がみるみるうちに紅潮していく。
俺を意識して俺だけにそうなってるならいいのに。
俺じゃない、ほかの男に同じことされたらひろはどんな反応を───…なんて、考えるだけでムカつく。



