おそるおそる顔を上げ、声がした方を見上げる。
ふ、と芦原くんの口角が上がったのが分かった。
かあ……っと頬が紅潮していく。
わたしがここから見ていること、バレバレだったみたいだ。
「玲於? 誰かと喋ってんの?」
会長の声にハッとして、気づかれる前にわたしはその場から逃げるように走り出した。
なんで笑ったの、芦原くんは。
どくどくと心臓が脈を打っている。
笑った時に微かに見えた尖った歯が、やけに印象的で、頭から離れなくて。
その後わたしは、いちばん近くにあった女子トイレに駆け込んで心臓の音がおさまるまで息を潜めた。
「いや。かわいーウサギがいたなと思って」
「ウサギ? なんの話ー」
「いや。それより話し戻るけど、今日はいいわ。最近ここのソファ寝心地悪いし」
「勝手にベッド代わりにしといてよく言う」
「保健室、最近行き過ぎてせめて週一にしなさいっていわれたんだもん」
「あはは、流石にばかすぎる」
───…なんて、芦原くんと会長がそんな健全な会話をしていたことなんて、わたしは知る由もない。
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