ーside 玲於ー






「おー、二瀬。ついでにちょっと頼まれごとしてくれないか」

「あ、えっと……はい」

「悪いね。これ、数学準備室に運んで、出席番号順に並べてほしいんだ。頼むよ」

「う、はい……」




職員室前の廊下を歩いていたところでたまたま耳に届いたその会話。


聞きなれた声に釣られるように視線を向けると、職員室の入り口で、数学教師の中畑(なかはた)がそこにいた女子生徒──ひろに、1クラスの人数分のノートを持たせていた。


……多分、週末に出された課題のやつ。




状況から察するに、中畑に授業の質問かなにかをしに行ったついでに雑用を押し付けられたのだろう。


中畑って結構そういうところあるし。

うちのクラスの委員長もよく中畑から雑用(しかも結構めんどくさそう)を頼まれていたっけ。





俺だったら平気で「めんどくさいんでやです」って言っちゃうようなことでも、ひろは人のお願いを断れない真面目ちゃんだから引き受けちゃうわけで。



中畑もそれを分かってるから、ひろとか委員長とかみたいに真面目そうな生徒にばっかり頼み事してるんだろうなって思う。


頭いいっつーか、ずる賢いっつーか。



中畑はひろに「いつも悪いね。よろしく」と軽くお礼を言うと、職員室に戻っていった。