意識を失っている間にあたしは十二歳の誕生日を迎えていた。

頭を強く打ち、全身打撲、足首の骨折のあたしはしばらく入院生活を送ることになった。

文化祭は参加出来ず、病室で過ごすことに。

由加に申し訳ないなぁ。

罪悪感を抱えながら、退屈な時間を持て余していた。


文化祭から一週間後の休みのある日。

由加がお見舞いに来てくれた。

「よかったよ。すっごく心配したんだからね!」

「由加、心配かけてごめんね?」

由加に負担をかけてしまい、罪悪感が芽ばえる。

だけど、由加は「気にするな」といつものようにあたしに明るく笑いかけてくれた。

「例の高校生には連絡したの? 心配してるんじゃない?」

由加は突然あたしに切り出した。

由加には名前を出していないけど、片思いしているとこを打ち明けている。

あたしはその瞬間、ファミレスで北川さんに遭遇した日を思い出してしまった。

いやだ……環お姉さまと仲睦まじい様子が浮かび上がってしまう。

胸が張り裂けるように痛い……。


「え、誰なのその人……?」


あたしは咄嗟に記憶をなくした振りをしてみせた。

由加はそんなあたしに目を見張り、驚いているみたい。


「響、前に言ってたでしょ? 凄く格好いい人で、最近よく電車で話すって」

「ごめん、分からないよ」

「響……もしかして……」

「ん、どうしたの?」

「なんでもないよっ。今言ったの忘れてね!」


少し気まずくなったけど、学校の話を切り出してからはいつものように楽しく盛り上がった。

あたしは嘘をつくのが下手だけど、由加は信じてくれた。

大好きな幼なじみを騙す真似は、心苦しい。

でも、これ以上失恋の傷を抉られたくなくて、自分の心を守る方を選んだ。



あたしは人知れず北川さんへ思いを寄せていく。

これからは兄を慕うように振舞っていこう。
告白は少し成長して、高校生になる頃にするの。

密かに決意を固めたけれど……。


ファミレスで鉢合わせた日以来、北川さんを見かけることはなかった。