北川さんの姿を捉えた瞬間、あたしの目は限界まで見開かれる。
涙が出てきそうだ。
環お姉さまの彼氏は北川さんだった。
その事実はあたしを絶望の底へ突き落としていく。
初めから望みのない恋だった。
あたしは慌てて北川さんから環お姉さまに視線を向ける。
「っ、ごきげんよう、環お姉さま」
「環お姉さま、ごきげんようっ!」
「響ちゃん、由加ちゃん、ごきげんよう」
あたしと由加は環お姉さまに手を振りながら、元の席に戻った。
由加と食べたモンブランの味も、話した内容も頭に入ってこなかった。
由加と別れて帰宅し、自分の部屋に入った。
一人きりになると。涙腺が一気に崩壊した。
「う、ふぇ……ひっ、く」
へなへなと敷かれたカーペットの上に座り込み、ベッドに突っ伏して声を上げた。
本当に二人はお似合いだった。
戦意は湧き出す前に削げられ、ライバルとして対峙する気すら起きない。
あたしは初めて失恋の傷みを知った。
この日の夜は泣いてばかりで眠れなかった。
翌朝、あたしは寝不足でぼんやりとしながら、駅へ向かっていた。
北川さんと顔を合わせる勇気はなく、いつもより一本遅い電車に乗ることにした。
駅に到着し、階段を登ってあたしが乗る方面の電車が停まるホームを目指す。
あと数段で登りきろうとする瞬間、突然あたしは目眩をおこした。
目の前が真っ暗になり、あたしは咄嗟に手すりを掴むけれど、足を滑らせてしまう。
「あ……」
バランスを崩し、あたしは派手に転げ落ちてしてしまった。
全身を何度も強打したせいで痛い。
視線を動かすと、頭から流れているだろう血が広がっていた。
だんだん目を開けているのが辛くなり、ついに意識を手放してしまった。
あたしは病院に搬送されてから一週間意識を失っていた。