「それに……恋人同士は同じベッドで寝るものなんだよ」
耳元で囁かれて、私は一気に全身が熱くなるのを感じた。
「そういうものなの……?」
「そうだよ。世間のカップルは皆そうしてるよ」
恋愛経験値が極端に少ない私には知らないことだらけだ。
「でも、私寝起きよくないから迷惑にならない?」
変な言動や行動をして悠くんを困らせていないかな? それが不安だ。
「全然迷惑じゃないよ。むしろ寝起きの響は甘えんぼうで可愛いよ」
「そ、そう……?」
予想外の返答に私の心臓はばくばくと暴れ続けている。
「だから、他の男と一緒に寝ないで」
「寝ないよ……っ」
男の先輩にカラオケに連れ去られた日から一ヶ月過ぎたのに、いまだに悠くんや家族以外の異性は怖い。
会話はおろか近付くことすら出来ない。だから一緒に寝ることはありえない。
なにより、悠くんが嫌がることはしたくない。
「大丈夫だよ。私は、悠くんとしか寝たくない……」
安心して欲しいと言う気持ちで、悠くんの目を見つめて言うと。
「これ以上、俺をあおらないで」
「きゃっ……」
突然、悠くんは私を引き寄せてきつく抱き締めた。
「あおるって……?」
私は何かまずいことを言ったのかな? じいっと見つめると、悠くんは柔和に微笑みかけた。
「なんでもないよ。でも、もう少しこうさせて?」
「うん……」
悠くんの鼓動が伝わって、体温に包まれて、また眠気がやって来た。
ドキドキするけど、心地いいな……。
私は悠くんに抱き締められたまま、まどろみ始めた。
初めてのお泊まりは私にとってドキドキの連続だったけど、今までで一番幸せな一日だった。
「俺、耐えられるかな……響が無自覚過ぎてある意味怖い」
悠くんがそんな独り言を零していたなんて、幸せに浸っていた私は知る由もなかった。