「花帆ちゃん、目玉焼きはお醤油とソース、どっち?」
悠一さんがにこやかに聞いてくる。
「あ、はい。醤油でお願いします」
「はい、醤油ね」
悠一さんからお醤油を受け取る。
向いの席を見ると、秋葉は無言で黙々と食事をしていた。
「……あの、そういえば、お父さんとお母さんは?」
本当はイヤだけど、とりあえず秋葉に話しかけてみる。
向かいの席に座っているのに、話をしないのは不自然だしね。
「いない」
即答する秋葉。
「いないって――」
私が戸惑っていると、悠一さんが代わりに教えてくれる。
「十年前に亡くなったんだ。それからずっと、僕が秋葉の親代わりでね」
「そうだったんですか」
お父さんもお母さんもいなくて二人暮しだなんて、大変だなあ。
「それより兄貴、店に行かなくてもいいのかよ。仕込み、あるんだろ」
秋葉がカタンと箸を置く。
「ああ、今から行くよ」
悠一さんは洗い物を終え、支度を始めた。
「仕込みって、今からするんですか?」
まだ朝の六時前だけど……。
「うん、そうだよ。和菓子屋の朝は早いんだ」
そう言って、悠一さんは出かけて行った。
「俺たちも九時に出勤だからな」
秋葉がじろりと私を睨む。
……そうでした。
今日は日曜日。
朝から秋葉に和菓子屋のお仕事を教えてもらうことになっているんだった。
ああ、緊張するなあ。
一緒に住むだけでも慣れないのに、お仕事を教わるなんて。