【4-2】



「ねぇ、小田くん、聞いてもいい?」

 メリーゴーランドや蒸気船、汽車に乗り、キャラクターショーなどを見ているうちに、冬至が近い昼間はあっという間に過ぎてしまい、周囲は夕闇になろうとしている。

 クリスマスのイルミネーションが輝き始めて、夕食にしようと列に並んだときだった。

「ん? なんかあるのか?」

 イルミネーションのおかげで、園内はほどよい暗さになる。

「今日、不安だった?」

 竹下がまっすぐに俺を見て問いかける。

 イルミネーションの光が昔と変わらない黒い瞳に反射している。

「えっ? そんなことはないけど」

「けど?」

「正直さ、本当に誘ってよかったのか、自信がなかった……。体調もそうだけど、竹下の気持ちを確かめずに、自分のごり押しで計画しちゃって、竹下の気持ちをもっと考えた方がよかったのかなって気がしたから……」

「そうだったんだね。小田くんは昔から私のこと、いつも優しくしてくれた。いつも心配してくれたもんね」

 当時から同じ学年のクラスメイトからするといつも幼いイメージがあったけれど、そんなあどけなさが混じる雰囲気は、今となっては大きな魅力だと思う。

「そうだったっけ?」

「うん。あの遠足だけじゃない。ちゃんと覚えてるよ。みんなが先に行っちゃっても、小田くんは私を置いていったりしなかった」

 微かに覚えている。もちろん、当時から彼女の身体が訳ありだということは分かっていたから、遠足だけでなく校外学習などでも養護の先生が常に付き添ってくれていた。そのため、クラスの主集団からは後れてしまうこともある。

 背の順では後半にいた俺は、いつも二人のところまでペースを落として、竹下の荷物を持っていたっけ。

 中には「竹下の荷物持ち」と言ってくる奴がいなかったわけじゃない。

 当時は言い返す言葉も見つからずに言いたい放題にさせていたけれど、今だったらきっと違う。

 そうは言っても、その出来事は17年前、記憶も微かになってくるほど昔の話だ。

「だって、当然のことをしただけなんだけどな」

「今となったら、そうかも知れないよね。でも、あれから、小田くんが私の専属みたいになって。私は嬉しかったけど、小田くんは迷惑だったんじゃないかって……」

「それは違う。断言できる」

 俺は思わず竹下の手をギュッと握った。

「俺さ、あんまり友だち作るの上手じゃなかったし。どっちかと言えばクラスのお荷物だったと思う。こんな俺でも、竹下はいつも相手にしてくれた。そんな竹下を放っておくことはできなかったから」

 小学生ではこんな理由を自分では説明できなかったかも知れない。

 それでも、自然と竹下のそばにいたいと思うようになったのはあの当時でも事実だ。

「だから、あの同窓会で、竹下ともう会えないと言われても信じられなかった。どこかで元気でいてくれると信じていた。だから、本当に嬉しかったよ」

 今にも泣き出しそうな竹下。必死になって笑顔を作ろうとしている。

「あのとき怒ってくれたんだもんね。そんな人がいたことなかったから」

「当たり前だろ。事実、竹下はこうやって生きてるじゃないか」

「小田くん、それは、こうやって私と会った後も変わらない……?」

 ここまで言われて気付かない方がおかしい。

「竹下……。久しぶりに会えたのが病院だったのもなんかの縁だと思う。俺はまた会えて本当に嬉しかった。

 今日だって、誰になんと言われても構わないくらい、竹下と一緒にいられて楽しい。

 ……もし、竹下さえよかったら、これからも一緒にいてくれないか……?」

 大きく見開かれた瞳から雫がこぼれ落ちる。

 そこにイルミネーションの光が映り込んで、虹色に光って落ちていった。