【19・エピローグ-1】



「おめでとうございます。元気な女の子ですよ」

 1年半ぶりに、今回の俺は一人であの待合室にいた。

 そこに、三河さんが呼びに来てくれた。そう、あのときと同じだ。

「ありがとうございます」

「いえ、私こそ大切な役目を受けさせていただいてありがとうございました」

「結局どのくらいでした?」

「2670グラムです。少し小さめですけど、みなさんで37週まで頑張ってくれましたから、母子ともに元気ですよ」

「母親があれですからね、本当に子どもが子どもを産んだみたいだ」

「いえ、美穂さんはもうすっかりお母さんですよ。以前とは全然違います」

 念のためにと、三河さんの手でNICUの保育器に寝かされている小さな女の子。

 名前がまだないので、仮として小田美穂の札がつけられている。

 美穂の妊娠が分かって、地元でお世話になっている産院に診察をお願いしたところ、彼女の体のことを考えて、総合病院への転院を提案された。

 それならばと二人で考えたことがあって、その病院の名前を告げると、快く紹介状を書いてくれた。

 美穂が普通の生活を取り戻す手術を受けた病院。あそこなら彼女の経歴は十分に分かっていてくれている。

 産婦人科で診察を受けて、美穂の心臓に負担がかからないように出産を予定帝王切開と決めたあと、俺たちは一人の看護師さんに入院時の担当をお願いしたいと申し出た。

「あぁ、三河ですね。分かりました。恐らく37週程度で出してあげないとお母さんに負担が強くなってしまうので、少し小さい状態だと思います。一度NICUで検査して、問題なければ一般の新生児室になりますから、ちょうどいいですね」

 そう、あの三河さんに取りあげてほしいとお願いした。

 あの時のお礼がしたかった。美穂が元気になったことを一番知らせたかった人。

「失礼します。ご指名をいただきました三河です 。あ、美穂さん!」

 診察室に呼ばれた三河さん。久しぶりの再会に喜んだあと、俺たちの申し出を聞いて驚いていた。

「私で、いいんですか……?」

「患者さんのご希望だよ。臍帯(さいたい)カットの処置と、産湯か状況によって清拭(せいしき)、そのあとはNICUでの検査引継をお願いします」

「分かりました。全て用意しておきます」

 俺たちの再出発を一番最初に見届けてくれた人だから。

「おなか大きくなりましたねぇ。お名前は決めているんですか?」

「まだ決まってないんですよぉ」

 三河さんは検診の予約時間をみていてくれて、よく待合室で話しかけてくれた。

 途中経過までは順調だったけれど、やはり妊娠後期は慎重にならざるを得なかった。

 年齢的には十分成人だけど、体が小さい分だけあちこちの負担も大きい。

 それはそうだ。小学生高学年の体格に、全体で3キロを越えるお腹をかかえては、歩くだけでも辛そうだ。

 美穂の場合は心臓になるべく負担をかけたくないから、可能な限り安静にしていてもらいたいと。

 互いの両親にも協力してもらって、なんとか早産だけは避けたいと祈っていたくらいだ。

 36週に入って、最後のもうひと踏ん張りというところで、いつ生まれてもいいようにと入院させてもらうことにした。

 そのときから三河さんが担当に入ってくれたこともあって、俺は安心して自宅の片付けを進めることができた。