【7-2】



 朝食の片づけを終えて、美穂とテーブルを間に挟んで座る。

「私ね……、春に大きな手術を受けることになったんだよ……」

「決まったのか?」

「うん……」

 なかなか予約が取れないと言っていた、あれなのか。

「今日、その説明を受けにこのあと行くの。お父さんとお母さんも一緒に」

「そうなんだ……」

「ずっと、受けるか決められなかった……」

「治せるんだろ?」

「うん、治せる……。でも、凄く恐い……。どんな手術でも、絶対はないから……」

「腕のいい先生が担当してくれるって言ってたよな」

「うん。それでも、恐い……。だから、お願いしたの。ヒロくんも一緒に行ってもらいたいって」

「俺が? いいのか?」

 患者さんの病状というのは、重要な個人情報になる。俺が病院について行けるとしても、診察室の外までだ。

 美穂の手術や生死に関わることに他人の俺は口をはさむことは出来ない。

「両親はいいって言ってくれた。だからね……、ヒロくんと家族になりたい……。他人じゃなくなりたい……」

「美穂ちゃん……、つまりだな?」

 しばらくの沈黙で、俺の頭はフル回転した。

 他人じゃなくなればいい。兄妹は無理だ。家族になればいい……、そして俺と彼女はいま恋人の関係だ。

 つまり……、そういうことか。

「美穂ちゃん……。分かった……」

 俺は握りしめている彼女の手をそっと両手で包んだ。

「美穂ちゃん、結婚しよう。約束する。これなら俺たちは家族だ」

「ヒロくん……」

 きっと、こんな突然に押しかけて了解は得られないと思っていたのだろう。涙が頬を伝わって、二人の手の上に落ちた。

「ヒロくん……。いいの?」

「どうせ、いつかは言おうと思っていたんだ。早いか遅いかの話だ。こんなプロポーズでも……、いいかい?」

「うん。形なんかどうだっていいよ」

 俺も実家の両親にはそれとなく話してはあった。

 小学生でずっと一緒だった元クラスメイトと付き合うことになったこと。お互いの環境が許す時期になれば、結婚することも考えているとは話してあった。そして「二人の気持ちが固まったら報告してくれ」と言われるところまでにしてある。

「ただなぁ、婚約と言ってもまだ口約束でしかないけど……。指輪も何も渡せていないんだけど……」

「ううん、そんなの要らない。その気持ちだけでいい……」

「美穂ちゃんのご両親は?」

「私の気持ちでいいって。私の相手がヒロくんだって分かってから、ふたりともヒロくんの気持ちだって言ってくれてる。反対はしないって」

「そうか」

 きっと、今日の話は重要なことなんだろう。その場に俺についてきて欲しい。そのために婚約者という立場にしておきたかったというのが真相らしい。

「美穂ちゃん……、一緒に行こう。すぐに支度するから待ってて」

「ヒロくん……、ありがとう……」

 あまりにも唐突かもしれない。でも心のなかでは決めていたんだ。彼女をパートナーにしてこの先を歩いていくんだと。

 その決意表明を今日にしただけの話だ。

 竹下美穂とならずっと二人で一緒にいたい。

 小学生のころ、誰にも話せないそんな夢物語を見たこともあった。

 あれから17年。離れていた時間を経ても、それが俺の本心であることに偽りはないと確信はしていたのだから。