【7-1】



 土曜日の朝、俺は玄関のチャイムで目を覚ました。

 時計を見ると、まだ朝6時半という時間だ。

「お、おはよう……。朝早くにごめんね……」

「美穂ちゃん……」

 やはり、そこにいたのは数日ぶりに顔を見ることができた彼女だった。

 突然の早朝訪問ということより、これまであまり見たことのない、どこか緊張している表情が気になった。


「ごめんね、起こしちゃったよね……」

「い、いや。こっちこそ、歩きに行くなら寝坊の時間だ。うん、とにかく中に入りなよ」

 太陽は上がっているけれど、相変わらず外は寒い。美穂を部屋の中に上げた。

「散らかってるけど、許してな」

「仕方ないよ。独り暮らしなんだから。ちゃんとお洗濯とかしてるんだね。それだけでもヒロくん偉い」

 一度部屋に入れたのは、俺が用意をしていないというだけじゃない。

 ウォーキングに行くときに着ているスエットではなくて、どこか特別な場所に出かける用意をしてきたらしい。

 ただ、表情とその容姿だけでも、彼女が何か重い判断を下さなければならないようだと直感した。

 だからこそ、玄関ではなく部屋で落ち着かせてあげたかった。

「どっかに行く時間は大丈夫なのか?」

「うん、まだそれには十分に時間があるから。ヒロくん朝ごはんまだでしょう? 作ってあげるから」

 よそ行きの服装だからと止めようとしたけれど、口に出る直前にその行動で美穂の気持ちが収まるならばと思い直して、声にだすのをやめた。

 彼女は冷蔵庫の中身をあらためてから、フライパンを取り出した。

 着替えとベッドを直しおわる頃には、美穂が冷蔵庫にあったご飯と、冷凍庫の具材でピラフとスープの朝食を用意してくれていた。

「すげぇな」

「ヒロくんち、独り暮らしだけど食材ちゃんと揃ってるからまだやりやすいよ」

 自分が作らなくてもいい朝食なんて、実家に帰った時くらいだから、本当にいつぶりだろうか。

 美穂に礼を言って、ありがたくいただくことにする。

「あー、美味(うま)かった。本当にありがとう」

 せめて片づけは自分でやると、皿を洗ってからテレビ前に戻ってみると、美穂が膝を抱えて座っていた。

「どうしたんだ……。元気ないぞ?」

「ヒロくん……、この前はごめんね……」

「あぁ、あれか。気にしてたのか?」

 無言で肯定の返事を返してくる。

「美穂ちゃん、約束する。俺はもう美穂ちゃんと一緒にいると約束した。その話を知ったから嫌いになるとかは絶対に言わない。だから、話してもらえないか……」

 あの時の彼女のお母さんの口調では、例えばそれが何か世間的に悪いことを犯したというようなものではない。それよりも、俺を悲しませないようにきちんと話しておくようにというような内容だと想定ができた。