【5-2】



 15分ほどのステージショーが終わり、そっと彼女を下に降ろす。

「ねぇ、私たちどんな関係に見られたかな?」

「さーな。交際初日でここまでするとは俺も想定外だったけど?」

 ベンチに座って、ふたりで甘いココアを飲んだ。

「重かったでしょう。腕、平気?」

 心配そうにしてくれる彼女の気持ちが嬉しかった。

「大丈夫。それより、ごめんな、コートの下スカートだったよな。つい忘れてた……」

 厚手の黒いタイツを履いていたからすっかり忘れていて、抱き上げるときに気がついてこれはまずいと後悔した。

 咄嗟に中が見えないようにスカートの裾を腕と足の間に挟みこんだけど、皺になってしまっただろう。

「もぉ、小田くん本当に女の子と付き合ったこと無かったの? そっちの方が信じられないよ」

 竹下は笑って首を横に振った。

「あんなことしてくれたの、本当に初めてだった。よかった、私の王子さまは間違ってなかったね」

 出口や電車が混雑する前に出ようと言った俺の提案を彼女は快諾してくれた。

 これだけ1日遊び回ったんだ。帰りの電車で座らせてやりたかったし、少しでも体力を残して家まで送ってやりたかった。

「小田くん……」

「うん?」

 電車を降りて、彼女の家への道を二人で歩く。早めに引き上げたと言っても、こちらに帰って来れば、もう明かりを消して寝静まっている家もある。

「さっきの話ね、私だって、小田くんの思い出にいるようなきれいな姿じゃない。いっぱいいろんなことあった……」

「そうか……」

「だから、分かってる。私も同じ。お互いに美化しちゃっているところもあると思うんだ。でも……、あの病院で会ったときから、私が好きなのは、今の小田くんだと自信持って言えるから……、これって、言葉にしたら『惚れ直し』……かな?」

「竹下……」

「美穂……。もう、そう呼んで?」

「美穂……ちゃんだなぁ?」

「もぉ、せっかく真剣になって言ってるのに。……でもいっか。私たち、あの時間からやり直すんだとすれば、そっちの方がいいかもしれない。じゃあ、私はヒロくんと呼んじゃうよ?」

「それは好きに呼んでくれ」

「ヒロくん……、本当に今日ありがとう。きっとひとりだったら、こんな時間まで外にいようなんて絶対に思わなかった。本当に楽しかったよ。優しくしてくれて、途中から不安なんかどっかに行っちゃった。みんなヒロくんのおかげ」

「美穂ちゃん。よかったな」

「もし、ヒロくんさえ嫌じゃなかったら、ずっと一緒にいてほしい……。でも、無理は言わない。ヒロくんが無理だと思ったら、遠慮なく言ってよね……」

 立ち止まった彼女を振り返ると、寂しそうな瞳が揺れている。

「美穂ちゃん……」

 本当に両腕で抱きしめると、その姿は俺の影ですっぽり覆われてしまうほど、華奢で儚い存在だった。

「約束する。俺は美穂ちゃんと一緒にいる」

「じゃあ……」

 おずおずと差し出した小指。そこに俺の小指を絡ませた。

「……指切りげんまん」

「嘘ついたら」

「針千本、のーます……」

 もう一度、彼女が俺に体を任せてきて、それを受け止める。

「ありがとうね。また、遊びに行こうね」

「うん、約束だ。おやすみ」


「おやすみなさい」

 美穂は笑顔で家の中に消えていった。