実を言うと、これまでのルシウス・クレイトンの人生以上に、静奈が死んだ後の黒瀬蒼也の人生に興味があった。

 いったいどんな難事件に巡り合ったのか。顔なじみの松坂警部は出世できたのか。……静奈のような探偵助手は、また雇ったのか。

 聞きたい話はいくらでもあった。


 しかし、ルシウスの答えは思いもよらぬものだった。



「静奈くんが死んだ後に解決した事件など一つもありません。俺は──黒瀬蒼也は、静奈くんが死んだあの日からひと月も経たずに死にましたから」

「え……」



 一瞬、聞き間違いかと思った。

 黒瀬は当然あの後何年も探偵を続け、数えきれないほどの事件を解決してきたのだと信じて疑っていなかった。

 ルシウスの中の黒瀬はいったい何歳なんだろう、記憶の中の黒瀬のイメージとほとんど変わらないから歳を重ねてもあのままだったんだな……などと、ぼんやりと思っていたのに。



 探偵が恨みを買うことの多いものだというのは、静奈が誰より知っている。まさか、黒瀬の身に再びあのようなことがあったのか──。