目的の名前を見つけると、今度はその貴族に関する調査書を探す。

 調査書はルシウスや商会の人間が個人的に作成したものらしいが、これがよくできている。今まで探偵として依頼されたときは、基本的な情報を集めるところからやっていたが、この資料のおかげで結構な時間が節約できそうだ。



「時々顔を見せにくるように……と言ったのは俺ですが、まさか三日と空けずに通いつめられるとは思っていませんでしたよ」



 調査書を読むのに集中していたら、いくらか時間が経っていたらしい。いつの間にかルシウスが部屋の入口付近で腕を組み、壁にもたれかかりながらシエラを見ていた。



「あれ、商談中では?」

「つい先ほど終わりました。それにしても、まだ朝も早いというのに……貴族令嬢というのはそんなに暇を持て余しているんですか?」

「あ、いや別にそういうわけじゃ」



 クレイトン商会の商会長・ルシウスが、探偵黒瀬の転生者であると判明してからおよそ二週間が経つ。

 彼の言うように、シエラは鍵をもらって以降、彼の屋敷の地下室に入り浸っていた。