あの日、人だかりができていたのに興味を持ってわざわざ馬車を降りたのは、本当に気まぐれだった。
「帰れ帰れ。見せ物じゃないぞ!」
人の集まる中心部では、いかつい顔をした大柄な衛兵が声を張り上げていた。そのかいあってか、人だかりは徐々にまばらになり、シエラはそこで起こっていることを知ることができた。
ずいぶんと立派な構えの店の中。そこにいるのは、首に紐状のものが巻かれ倒れている男と、衛兵に拘束され大声で喚いている男。
倒れている男は、恐らくもう息をしていない……。シエラは直感的にそう思った。
「お嬢様!見てはなりません。馬車に戻りましょう」
シエラに付き従っていた使用人が、慌てた口調で言った。
しかしシエラは首を横に振った。
「大丈夫、こういう現場には慣れていますから。もちろん気分の良いものではありませんが」
「は?」
「え?」
その言葉はあまりに自然に口から出て、シエラはそれに違和感を覚えるまで時間がかかった。



