「今日も『令嬢探偵』、お見事でしたよ。お嬢様」
「やめてちょうだい。『令嬢探偵』なんて妙なあだ名が定着しちゃったせいでプレッシャーも倍増よ……。ああもう、胃に大きめの穴が開いた気がする」
屋敷で堂々と自分の推理を語ったシエラと、本気で胃の穴を心配するように腹部を押さえる今のシエラ。どちらが素なのかと問われれば、完全に後者である。
『令嬢探偵』のシエラは、“ある人物”を意識して演じている姿に過ぎない。
「所詮私は探偵助手だもの。いくら黒瀬さんの真似をしてみようが、探偵になんてなれやしないわ」
その呟きは小さすぎて、向かいに座る使用人の耳にすら届かなかった。
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シエラが初めて探偵の真似事をしたのは2年前、15歳のときだった。
この国でそこそこ力のある伯爵家に生まれ、それまで何不自由なく生きてきた。もともと好奇心は強い性格だったが、貴族令嬢として教育を受けていたこともあり、気になったからといってむやみやたら厄介事に首を突っ込むような真似をしたことはなかった。



