元探偵助手、転生先の異世界で令嬢探偵になる。




「シエラ様……!本当にありがとうございました」



 夫人が部屋を出て行ったのを見届けてすぐ、依頼をしてきたメイドがシエラの元に駆け寄って来た。



「また何かあったらご依頼を。お体、大切にしてくださいね」

「はい!……このお腹の子、絶対に大事にします」



 彼女がまた「ありがとうございました」と頭を下げた。

 それを横目に、ダグラス家の使用人がシエラに耳打ちする。



「お嬢様、そろそろ……」

「そうね。帰りましょうか」



 シエラは部屋に残った屋敷の人々の視線を集めながら、堂々とした足取りで部屋を出て行った。


 侯爵邸の前には、既に迎えの馬車が来ていた。

 その馬車に、シエラは手を取られながら優雅に乗り込む。

 そして──



「あ゙あ゙あ゙よがっだあぁ……今日も何とかなったわぁ」



 そのまま座席に崩れ落ちた。


 つい先ほどまでのような、身分の高い大人たちに囲まれても物怖じせず堂々としていた『令嬢探偵』の姿はそこにはない。

 いるのは、重度のプレッシャーから解放され使用人に弱音を吐く、十七という歳相応の少女だった。