来るのは、遺言状の暗号を解いてほしいという訳ありの資産家の息子だったり、警察の調査に納得できないから調べなおしてほしいと依頼する若い女性など。それから事件が迷宮入りしそうになれば黒瀬に頼る癖がついてしまった刑事たち。

 とある冬の日に訪れていたのも、そんな中の一人である松坂という警部だった。



「一昨日の夕方、麻薬の密売組織の男を一人を逮捕したのだが……」



 かなり大きな組織のため、一人捕まえたぐらいではどうにもならないが、関わる人物を一人でも多く見つけ出したい。

 そこで捕まえた男の部屋を捜索し、仲間とのやりとりだと思われる手紙を何枚も発見した。しかしながらその手紙は──。



「暗号、ですか」



 松坂警部は、一枚一枚ビニール袋に入れられた手紙をどさっと机に置いた。




「……これで男の部屋から見つかった手紙は全部だ。不本意だが、あんたに解読を依頼したい」

「ええ、わかりました。ご安心を、あなたの手柄を一つ増やせるよう精一杯務めさせていただきますよ。また出世できると良いですねぇ」