シエラは騒ぐ夫人などまるで無視して、淡々と話す。



「そして彼女は少し前から度々体調不良を訴えていたようですね。吐き気にだるさ、味覚も変わったと。……もしかして、侯爵との子を身ごもったのではありませんか?」

「そ、れは……」



 部屋の中の人々の視線は、今度は最初の容疑者であるメイドに向けられる。



「はい、おっしゃる通りです……」



 彼女は不安そうにうつむいていたが、やがて静かにうなずいた。



「そのことには夫人にはも気付いていらっしゃったのでしょう。自分との間には何年も子どもができないままなのに、一介のメイドが身ごもるとは……嫉妬に不安、それから恨み。夫を殺し、その愛人に罪をなすりつける動機としては十分かもしれませんね」

「そ、そんなの全部憶測でしょう?知らなかったわよこの女が夫の子を身ごもっているなんて!」

「そうですね。動機については想像するしかありませんから。ですけど、証拠もなく推理ショーをするのは、探偵としてあるまじき行為です」