前世の記憶があるというだけで、今はそれぞれに別の人生を歩んできた別の人間だ。

 “黒瀬のことを想う静奈”としてルシウスの隣にいるのは、ルシウスに対しても、そしてシエラという今の自分に対しても不誠実ではなかろうか。


 だが、そのことを伝えれば、ルシウスは実に簡単に言ってのけた。



「別に良いんじゃないですか?」

「え?」

「俺は黒瀬蒼也の記憶を取り戻してから、ずっと静奈くんにとらわれ続け、他の人を愛することができませんでした。ですが今の君のことは、出会ってすぐに愛せるようになりました。ならばシエラ嬢のことを静奈くんと同一視しているのかと聞かれればそれも違って、ちゃんとシエラ・ダグラスという人間として見ているつもりでいます」

「えっと……」

「要するに、そんなこと考えたってきりがないんですよ。だから俺は、君のことが恋しくて仕方がないこの感情を信じることにしています。……君も、それで良いのではありませんか?」