この屋敷の使用人たちの話題といえば、シエラが解決した事件についてのことばかりらしい。一番シエラの身近で世話をしてくれるこの侍女は、屋敷の誰よりも先にネタを仕入れるべく、毎朝こうして期待の眼差しを向けてくる。



「残念だけど、今回は私が関われそうな依頼はないみたい。気になる事件がないでわけじゃないけど……場所が少し遠いからお父様の許しが出ないわ。お断りの手紙を書かないと」

「そうでしたか……。あ、わたし便せんと封筒持ってきますね!」



 ちなみに、シエラが探偵をしていることは家族ももちろん知っている。娘に甘い父などは、最初こそ良い顔はしなかったが、上目遣いで目を潤ませながらお願いしてみたら、「日帰りで行ける範囲なら自由にしろ」と言ってくれた。

 自分が行けば助けになれそうなのに、遠くて許しが出ないということで悔しい思いをしたことも数えきれないほどあるが、こればかりは仕方ない。

 シエラは依頼を断る手紙を書きつつため息をついた。