シエラの目の前で、あり得ない光景が繰り広げられた。
黒いローブの使用人が、ラドクリフ侯爵の綺麗な顔面を、力いっぱい殴りつけた。
どれぐらいの力なのかと言えば、ベッドの上にいた侯爵が、吹っ飛ばされて床に叩きつけられるぐらいのものだ。
ローブの男はそのまま滑らかな動きで侯爵の背に跨り、どこかからか出した縄でその腕を縛り付けた。
自分の身に何が起きているのかわからない様子のラドクリフ侯爵は、首を精一杯動かして、使用人のフードの中を覗き込む。
そして、驚いたような声を上げた。
「……誰だ、お前は!」
「おや、気絶していませんねぇ。この殴り方は間違っていましたか」
男はそう言いながらバサっと音をたててローブを脱ぐと、侯爵に触られすっかり服を乱していたシエラの体を隠すように被せた。
ローブがなくなったことで、その男の顔がシエラにもはっきり見えた。そして一瞬、驚きで呼吸が止まった。
「……ルシウスさん⁉」



