推理を披露するときにはいつも黒瀬の姿が頭をよぎり、自然と口調が彼に似た。

 丁寧なのに、どこかに毒を隠し持っているかのような、危険な冷ややかさがある……そんな話し方。まあ、黒瀬と比べたらだいぶマイルドだとは思うが。


 最初に『令嬢探偵』なんて呼ばれ方をしたのは、とある有力貴族の家で起こった事件を解決した頃だったか。噂好きの貴族たちを中心にシエラの話は瞬く間に広まり、シエラをモデルにしたヒロインが登場する小説が出版されたなんてこともあり、それをきっかけに庶民の一部にも広まった。

 そんなこんなで、前世の記憶を取り戻し初めて推理をしたあの日から一年も経たないうちに、ずいぶんと有名になっていた。

 どんな凶悪犯を目の前にしても決して物怖じせず、堂々と推理を語る凛とした美しい令嬢。……色々と設定が盛られている。


 期待されたらどうにか応えようとしてしまう性格は前世から変わっていないシエラは、こうして「正しく真実を見抜かなければならない」と「キャラ設定を守る」という二重のプレッシャーに押しつぶされそうになる日々を送ることになったのだった。