少女の言葉に、その部屋にいる全員の視線が侯爵夫人に注がれる。


 夫人の顔からはすっかり血の気が引いている。それでもどうにか少女に反論しようと、ゆらりと立ち上がった。



「……こ、殺されたのはわたくしの夫です!辛くて不安で仕方がない中わざわざ捜査に協力してさしあげたのに、犯人呼ばわりされるなど心外ですわ!」



 このたび、とある侯爵邸で起きた殺人事件。

 被害者は当主である中年の侯爵。刃物で刺され殺された被害者のすぐそばに、とあるメイドが普段から愛用しているハンカチが落ちており、アリバイもなかったことから当初はそのメイドが犯人であると断定されていた。

 しかしそのメイドには全く身に覚えがなく、藁にも縋る思いで少女に依頼の手紙を送った。世間で『令嬢探偵』と呼ばれもてはやされている、シエラ・ダグラス伯爵令嬢に──。



「まずは動機からお話ししましょう。こちらのメイドさんは、亡き侯爵のお気に入りだったそうですね。侯爵が個人的に何度も私室に招いていた、と何人もの使用人の方が証言していました」