「『シルクのように滑らかな髪に、紫水晶のように輝く瞳。君の美しさの前ではどんな花もかすんでしまいそうですねぇ』……みたいな?いやいやいやいや、ない!絶対言わないわよ」



 自分で想像しておきながら、あまりに言われているイメージが湧かなくて、逆に面白くなってきた。ただ、──嫌な感じはしない。

 あの綺麗な青い瞳に見つめられながら甘い言葉をささやかれたら、恥ずかしいながらも少し嬉しいかもしれない。



「ん?青い瞳?それは黒瀬さんというより……」


 黒瀬のことを想像したつもりでいたのに、頭に浮かんだのはルシウスの姿だった。

 それでふと思った。前世で静奈は黒瀬に恋をしていた。そしてそれを必死に押し殺していた。しかし今、“シエラ”として“ルシウス”のことはどう思っているのだろう。

 そんな面倒な思考に陥りかけたとき、部屋の扉がノックされた。



「シエラ、いるか?」

「お父様」



 自他共に認める娘に甘い父親。父親がこうでなければ、伯爵令嬢でありながら探偵などできていなかっただろうなとよく思う。