しかし、黒瀬はそれにゆっくり首を振った。
「残念ですが、俺はもう二度と探偵はやりません」
「は?探偵をやらない?」
「ええ。たとえ死んで生まれ変わるようなことがあっても、絶対に」
「おいおい。何を言っている?あんた本当に黒瀬蒼也か?」
そんな風に思われるのも無理はない。だが黒瀬は本気だった。
目をゆっくり窓の外に向けて言う。
「……愛する女性一人守れない人間に、探偵なんて務まるわけがないでしょう」
窓に自嘲めいた笑みを浮かべた男の顔が反射した。
「これ以上話すことはないので出て行ってもらえませんかねぇ。恐らく二度と会うことはないと思いますが」
「おい」
まだ何か言いたげな様子だったが、警部は諦めた様子で大きく息をつく。
「……また来る」
「来なくていいです」
「来る」
短く言い残して背を向けた警部に、黒瀬は呆れて肩をすくめた。
──黒瀬の「二度と会うことはない」という予言は当たった。
松坂警部が訪れた翌々日、黒瀬は25歳という若さで息を引き取った。



