「静奈くん!」
静奈は、膝からがくんと崩れ落ちるように倒れた。
黒瀬が抱き起したとき、既に彼女に意識はなかった。
「静奈くん?目を、目を開けてください!」
黒瀬の呼びかけに、当然のように答えはない。
濡れたような感覚があって手を見ると、静奈の血がべっとりと付いていた。どう考えても助かる出血量ではなかった。
「な、……違う、オレは……」
静奈を刺したことは、酒田にとって本当に想定外だったようだ。動揺して、手に持っていた真っ赤に染まったナイフを落としていた。
……ここから先の黒瀬の記憶は実に曖昧である。
しばらくは時間が止まったかのように動けなかったが、やがて震える手でナイフを拾い、腰を抜かして座り込む酒田に向かって振り下ろそうとした。そして刃が届こうという直前で、遅いからと様子を見に来た松坂警部に羽交い締めにされて止められた。そこまではかろうじて覚えている。
一つ言えるのは、このとき松坂警部が来るのがあと一瞬でも遅ければ、黒瀬は殺人犯の仲間入りを果たしていただろうということ。本気で酒田を殺すつもりでナイフを振り下ろしていた。



