元探偵助手、転生先の異世界で令嬢探偵になる。




 酒田は、床に落ちていた大きなナイフを拾い上げた。綺麗に磨かれた刃がきらりと光る。


 彼の目つきが変わるのがわかった。恨みのこもった双眸が黒瀬をまっすぐ見ている。



「死ねええええぇぇぇ!」



 酒田は、奇声を発しながら、徐々に黒瀬に迫ってくる。

 背中側は壁。避けられない。

 覚悟はしていたつもりだったが、やはりわずかな恐怖心はあり、反射的に目を閉じた。




 ……しかし、一向に痛みは訪れなかった。

 その代わり──



「かはっ……」



 いつの間にか目の前に、先ほどまで手足を縛られていたはずの静奈が立っていた。

 黒瀬を守るように両手を広げる彼女から、鮮やかな赤い液体がぼたぼたと落ちていき、血だまりとなっていく。


 彼女を縛っていた縄は、ずっと前にほどいていたのだと気付いた。ほどいた上で、酒田を刺激しないよう拘束されたふりを続けていたのだ。

 以前静奈と外出した際、立てこもり事件に巻き込まれたことがあった。事件自体は黒瀬が機転を利かせてあっさり解決したが、そのとき黒瀬は彼女に縄で縛られたときの抜け方を教えていた。静奈はそれをちゃんと覚えていたらしい。