元探偵助手、転生先の異世界で令嬢探偵になる。




 蹴られたような鈍い音と、静奈のきゃっという短い悲鳴がした。



『余計なこと言うんじゃねえ!お前自分の立場わかってんのか!』



 酒田のそんな怒鳴り声と共に通話が切れ、ツーツーという機械音に変わった。

 黒瀬は一度受話器を置き、一度深呼吸をしてからタクシーを会社の番号を押した。








 イライラした態度がにじみ出ていたのか、タクシーの運転手は終始話しかけてくることはなかった。


 その場所は空き家になっているといっても定期的に手入れはされているようで、ほとんど荒れていなかった。


 家の前に立った黒瀬がゆっくり横に視線を向けると、曲がり角あたりで身を潜める松坂警部と目が合った。警察に普通に通報しては酒田にバレる可能性が高まる。何度も黒瀬の世話になっている警部に、個人的にこっそり連絡を入れておいたのだ。

 だが、酒田が黒瀬の命と引き換えに静奈を解放すると言っているのは伏せてある。酒田を確保するためではなく、静奈が解放された後に保護してもらう目的で呼んだに過ぎない。