触れた唇から、熱や呼気が伝わってくる。手を彼女の首にやって脈を確認したあたりで、だいぶ気持ちが落ち着いた。
「黒瀬さん。私はここにいます。生きています。だからそんな顔しないで……」
静奈の泣きそうな声に、ようやく我に返った。
黒瀬は、静奈が自分に好意を抱いていることを何となく察していた。察しているからこそ、自分の想いは知られないように細心の注意を払っていた。
もし気持ちが通じ合ったとして、恋人のような関係になったとして、残された時間があまりに少ない。
黒瀬とは違い、静奈の人生はこれからも続いていく。彼女の人生の中のほんの一瞬の時間を共有しただけの自分が、彼女の枷になるのだけは避けたかった。数年後ほんの気まぐれに、「そういえばそんな男もいたな」と思い出されるぐらいで十分だ。
この日以降黒瀬は、静奈に不用意に触れないよう、弱った様子を見せないよう、これまで以上に気を配るようになった。



