元探偵助手、転生先の異世界で令嬢探偵になる。




 恐怖の対象となった死は、自分のものだけではなかった。

 気がつけば他人の死すらも恐ろしく見えるようになった。

 自分の関わった事件で新たな被害者が出て、そのせいで強い精神的ダメージを負う。そんなこと、それまではなかったはずだった。



 そして一度だけ、溜まりに溜まった死への恐怖を静奈の前で溢れさせてしまったことがあった。


 ある連続殺人事件を無事解決した日のことだ。本当に嫌な事件で、黒瀬が調査に乗り出した後にも、二人の人間が殺されるのを阻止できなかった。

 事件現場では普通に振る舞い通すことができたはずだが、帰ってきてすぐに、糸がぷつりと切れたように体が重くなった。ソファーに倒れ込めば、「コーヒーでも淹れましょうか?」という静奈の気遣わしげな声が聞こえた気がした。

 静奈がそっと近づいてくる気配を感じて、黒瀬はほぼ無意識に彼女の頬に触れた。


 そして自分の唇を、彼女の唇に付けた。


 それまでだって静奈に触れたいという衝動に駆られることは幾度となくあったが、きちんと理性で抑えこんでいた。その理性が、精神にダメージを負った状態では全く働かなかった。