貴方の命はもってあと5年です。


 黒瀬が医者からそんな宣告を受けたのは、21歳の誕生日を迎えて幾日も経たない日のことだった。


 あと5年で、命が終わる。

 その言葉を頭の中で反芻すると、黒瀬は感情の読めない瞳にわずかな光を灯した。 意味もなく過ぎていく日々に突如終わりが見えた。……喜ばしいことだった。


 人間いつ死ぬかなんてわからない、だから好きなことをしろ。

 口で言うのは簡単だが、それを人生において実行している人はほんの一握りだ。しかし、はっきりと終わりの見えた人生なら、行動に移すのは容易い。


 黒瀬は余命を宣告されたその日のうちに、主席で合格し常にトップの成績を収め続けていた大学を辞めた。

 大学教授だった両親は黒瀬が高校生のときに交通事故で亡くなっていたし、親戚もほとんど干渉してくることはなかったため、誰に咎められることもなくずいぶんと自由に動くことができた。