衛兵はしばらく睨みつけるような目のまま口を堅く閉ざしていたが、やがて貴族相手に面倒事にしたくないという思いが勝ったのか、あまり感情が感じられない口調で話しだした。
「……見回り中に、店内で不審な動きをするこの男を発見した。捕らえるため店に入ってみたら既に息をしていない店員が倒れており、おれの姿を見て慌てて逃げようとしたこの男を殺人の容疑で拘束した」
「なるほど。ですが、彼は先ほどから『自分は殺していない』と繰り返し訴えているようですが」
「そりゃあそう言うだろう。だが、怪しい動きをしていたこと、おれを見て逃げようとしたこと、そしてこんな大きなナイフを持ち歩いていることが何よりの証拠だ。さしずめ、店員を殺して宝石を盗もうとしたんだろう。……満足頂けたらお引き取り願いたい」
部外者が入ってくるな。さっさと帰れ。そんな思いが、表情からも声からもひしひしと伝わってくる。
しかしシエラはそれを無視して、容疑者の男に一歩近づいた。
先ほど一つあることに気が付いたのだ。気付いたからには聞いてもらわなければ。



