自分は、黒瀬に恋をしているのだと。彼にとって自分が助手でしかないことが辛いのだと。
やがて黒瀬は、我に返ったように触れていた手を離した。
「コーヒーを淹れてくれると言っていましたね……。できれば少し濃いものをお願いします」
「……はい」
黒瀬が静奈にこのような真似をしたのは、この日一回きりだった。それ以降は、静奈にすら弱っている姿を見せないようになった。
キスをしたことについて触れることも一切なく、あれはただの間違いで、静奈との関係は探偵とその助手に過ぎないのだと改めて告げられているような気分になった。
彼の態度から察するに、静奈の抱く気持ちは完全にバレていたのだろう。
しかしそれを言葉にしたら、これまでの関係は間違いなく壊れてしまう。
だから静奈は、その淡い想いは死ぬまで必死に押し殺し続けた。



