しかし今シエラの目の前にいる衛兵は、もちろん黒瀬と静奈の顔なじみの刑事などではない。
彼は突然現れたシエラのことをぎろりと睨みつける。
「どちら様で?」
力ずくでつまみ出したりせずにいったんそう問うたのは、シエラの服装を見てのことだろう。
明らかに庶民では手が届かないような上質なワンピースにアクセサリー。もし有力貴族の娘だとすれば、無理に追い出したりしたら後で面倒なことになるかも……と警戒するのは当然だ。シエラを連れ戻すべく先ほどから「お嬢様!」と小声で呼び続ける使用人の存在も、シエラが身分の高い人間だと感じさせるのに一役買っている。
「失礼いたしました。私はダグラス伯爵の娘、シエラ・ダグラスと申します。人だかりが気になって来てみたのですが、もしよろしければ今の状況を教えていただけませんか?」
シエラは衛兵の威圧感に内心びくびくしながらも、それを悟らせない上品な笑顔を浮かべて言った。



