どきりとした。

 ルシウスの口元に、何とも言えない自虐的な笑みが浮かぶ。



「適当なところで静奈くんを雇ってもらい、助手を辞めさせる。それで俺も探偵を辞めて一切の連絡を絶つ。そうすれば俺が死んでも静奈くんはそれを知ることもなく、そのうち俺のことなど忘れるだろう。……本当は静奈くんが二十歳の誕生日を迎える頃までに、そうするつもりでしたよ」

「そんな……!」

「でもできませんでした。まだ大丈夫、まだこの時間を過ごしていたい。そんな甘いことを思っている間に──思わぬ形で、失うはめになりました」



 彼はそこで口を閉じ、また窓の外に目をやった。

 そして、先ほどより一回り小さな声でこう聞いた。



「……後悔したでしょう?前世で君が死んだのは俺のことを守ったから。長く続くはずだった人生を捨ててまで守ったのは、余命幾ばくもない、命をかけるに値しない男だったのですよ」

「っ、後悔なんて──後悔なんて、するはずないでしょ!」