代わりにルシウスが静かな声で尋ねる。
「息子さんは、その時のことを覚えていないのではありませんか?」
「……ええ。さすがにショックが大きかったみたいで、連れ去られた辺りから記憶がすっぽり抜け落ちているようです」
「それは幸いでしたね。ですが、ここにいれば何かの拍子にまた思い出してしまうということがあるかもしれません。それは避けるべきだ
「っ……」
「息子さんと共にこの地を離れ、どこか遠くへ引っ越しなさい。……あの日あったことは、貴女の胸の中だけにしまっておくんです。できますね?」
その言葉を聞いたシエラは、驚いてルシウスの顔を見る。
驚いたのはダイアナも同様だったようで、彼女は「えっ」と声を上げ狭い馬車の中で立ち上がった。
「私達を、見逃すんですか?」
「シエラ嬢が、デマール家の違法薬物購入と誘拐及び人身売買関与の証拠をつかんでいます。世間の注目が集まるのは、マルガリータの死因よりそちらでしょう。というか死因に関しては、薬物の作用から狂気を起こし、自ら腹を刺したというところで落ち着くかと。……まあ、罪の意識に耐えられないから出頭したいと言うなら止めませんが」



