現実に引き戻されてシエラは改めて考える。こういう事件現場に慣れているのは前世の静奈。今の自分はシエラ・ダグラス。静奈としての記憶を思い出しはしたものの、だからといってシエラとして生きてきた記憶が消えたわけじゃない。
シエラは一度呼吸を整え、静奈としての視点から今の状況を分析してみることにした。
シエラが生まれ育ったこの世界は、前世の日本とは全く違った世界。イメージとしては中近世ヨーロッパ風といったところか。
いわゆる異世界転生というやつなのだろうが、異世界といっても妖精だったり魔王だったりというのおらず、魔法なんかもない。ただ、静奈が生きた時代の日本に比べれば文明はまだ発展途上だ。
そして今目の前で容疑者らしき男を拘束している衛兵は、治安を守る警察官のような存在。容疑者の男はずっと無実を訴え続けているが、衛兵はその声に耳を傾けようとする様子はない。
シエラは事件現場をさらによく観察しようと一歩近づいた。



